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南極大陸の周囲には、冬から春にかけ、「極渦」というジェット気流が渦巻いている。
内側が安定して外側と混ざりにくい。
オゾンは酸素に太陽の紫外線が当たってできるが、南極では冬の間、太陽が顔を出さないためにオゾンができない上、渦に遮られて周辺からも流れ込んでこない。
しかも、上空では温度が零下80度にもなり、すべてが凍りついている。
そこの小さな氷の粒の表面で特殊な化学反応が進行して、春になって太陽が戻り氷が解け出すと、一挙に塩素原子を放出してオゾンを壊す連鎖反応が進行する、と考えられている。
一方、同じような気象条件の北極では、陸地と海が混在していて大気の状態が不安定なために、極渦も蛇行したり、中心が位置を変えたり、渦が壊れたりして成層圏がかき混ぜられているので、オゾンホールははっきり現れないらしい。
オゾン層問題の系譜、オゾン層の破壊が最初に関心を集めたのは、60年代末に英仏が共同開発した超音速機コンコルドが成層圏飛行を開始したときだ。
この排ガスに含まれる窒素酸化物がオゾン層を破壊するのではないか、と科学者や環境保護団体が問題にし始めたときだ。
米国運輸省は調査委員会を組織して3年間にわたって検討した結果、この影響は少ないとする結論を出した。
このころ、イギリスで大気汚染を追っていた医学者のJ・R博士がおかしなことに気がついていた。
R博士は、「オゾンホール事件」に登場する関係者の中ではもっとも興味深い人物だ。
20年間イギリス国立医科学研究所に勤めて、終身の身分も住宅も保障されていたのが、こんな生活に安住するとぼけてくるという信念から退職して、田舎に引きこもって分析機器の開発に没頭していた。
生活費や実験の費用を捻出してくれる賢夫人に支えられて、鋭敏な電子捕獲型検出器(ECD)の開発に成功した。
これは現在でも、環境中の微量物質を分析する最強の武器となっている。
初めは、この装置の精度を証明するためにフロンガスの濃度を測ってみた。
1970年のことだ。
高感度のこの装置で測ると、どんな場所でもフロンガスが検出された。
都会の大気からフロンが検出されるのは分かるが、田園地帯でもほぼ同じ濃度で測定できた。
1918年、米国のゼネラル・モータース。
フリジディア社が、当時使われていたアンモニアよりも安全で効率の高い冷蔵庫用の冷却剤の開発を化学者グループに依頼した。
この結果を専門誌に投稿してもなかなか掲載されず、やっとイギリス・南極問を往復する船上で測定したデータが科学専門誌『ネ卜チャー』に採用されたのは73年になってからだ。
当時、本人はフロンガスが無害だと信じて、「大気汚染の追跡の指標に役立つ」と再三弁護していた。
その後、オゾン層破壊の可能性が高まるにつれて「爆弾の上に座っていたとは夢にも思わなかった」と率直に告白している。
わずかな量にせよ、はるか海洋上でもフロンガスが検出されたというこの論文を読んで、米カリフォルニア大学アーバイン校のS・L教授とメキシコからの研究生M・M博士の一人は「フロンガスが分解されないままに成層圏にまで達し、紫外線に当たって分解して一連の化学反応でオゾン層を破壊するに違いない」とひらめいた。
これが74年に『ネーチャー』誌に発表された記念すべき論文となった。
L教授とは何度か会ったことがあるが、180センチを超える偉丈夫で、一時はプロ野球の選手になろうとしたという「体力派」の科学者だ。
この仮説が、フロンガスをめぐる長い論議の発火点になった。
フロンガスやユーザーのエアコン・メーカーはこぞって反対した。
環境保護団体はヘアスプレーなどの不買運動を起こしてフロンガスの使用制限を要求し、政府、業界、環境保護団体の3つ巴の論争となった。
マス・ミッジリー博士は、クロロフルオロカーボン(クロロU塩素と、フルオロUフッ素のついたカーボンU炭素という意味)に目をつけ、わずか一日間でつくり上げた。
現在のフロンである。
製品の発表会で、衆人の前でフロンガスを胸一杯に吸い込んでロウソクの火に向けて吹きつけ、毒性も可燃性もないことを証明したというエピソードが残っている。
彼は、ガソリンのオクタン価を上げるための添加剤、4エチル鉛の開発者としても知られている。
この鉛も今や北極から深海までも汚染の原因になっている。
技術の進歩には寄与したが、地球汚染を引き起こした2つの物質の合成者として歴史に名を残す皮肉なことになった。
1931年には、ゼネラル・モータース社とデュポン社が合弁でフレオンuとフレオンの生産を開始し、デュポン社は世界最大のフロン会社へと発展していく。
この結果、デュポン社の商品名「フレオン」がこの物質の代名詞となった。
世界的には、その化学名の「クロロフルオロカーボン」とか、それの頭文字をとった「CFC」とか呼ばれる。
日本では「フロン」が使われるが、これは「高圧ガス取締法」で用いられた和製用語だ。
このほか、「ダイフロン」(ダイキンエ業)、「アサヒフロン」(旭硝子)などの商品名で売られている。
このガスはフロンガスとひとまとめに呼ばれているが、通常使用されているものだけで20種近くもある。
その中でも、常温で気体のフロンu、フロン理さらに液体で洗浄に使われるフロン理フロン別、フロン珊の5種が、とくに消費量もオゾン層への影響も大きいことから、「特定フロン」と呼ばれて国際的な規制の対象となっている。
この化合物は開発当時から「夢の物質」と呼ばれていただけあって、優秀な特性を備えている。
第一に、熱に対して安定で分解しにくく、化学的にもきわめて安定なことだ。
しかも、不燃性で冷却材としても最適である。
つまり、圧縮して液化させ、使用するときにノズルから吹き出せば気化熱を奪って冷却する。
さらに、洗浄材としても優れている。
液体状のフロンも47度という低温で気化するので、液体で洗って簡単に乾燥できる。
さらに、電気抵抗が大きく電気絶縁性が高い、毒性が低い、製造コストが安いlなどなど.当然、その用途もきわめて広い。
まずは冷却用だ。
冷蔵庫や冷凍庫、エアコンや除湿機の冷媒用。
家庭用クーラーではフロン躯、自動車用はフロンV、ビルや劇場などの大型クーラーはフロンuと畑がよく使われる。
さらに、ヘアスプレーや殺虫剤などエアゾール製品の噴射剤、消火剤など身近に使われている。
一緒に噴射する物質を圧力をかけて液化したフロンガスとともに封じ込めてやると、よく混ざって霧状になって出てくるという便利な性質からだ。
最近では、洗浄用の消費が急増していた。
半導体などゴミや油分を嫌う電子部品やカメラ部品、フィルムなどの洗浄には液状のフロンが最適で、地下水汚染の原因となるトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンに代わって需要が急上昇している。
これはフロン則が主役だ。
この性質は、船倉や穀倉の消毒でも重宝されている。
さらに、梱包やハンバーガーの容器などに使う発泡ウレタンフォームの製造でも、発泡工程で使われる。
これにはフロンUとVが主に使われる。
生産量は1985年現在、世界で105万8000トン。
最大の生産国の米国は37万5000トン、日本は16万1000トン、欧州共同体(EC)全体で40万トン、ソ連・東欧は12万一000トンだ。
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